今年も福島県大熊町での開催が決定した「OKUMA ODYSSEY -
おおくま学園祭2025」。東日本大震災で甚大な被害を受けた大熊町は、復興の軌跡を振り返りつつ、地域の未来を切り開く取り組みを続けています。
3月15日の開催に向けて、本イベントに携わる小林武史さん(ap
bank代表理事)、保良雄さん(美術家)、そして大熊町出身で地域再生に携わる佐藤真喜子さん(大熊インキュベーションセンター職員)に、大熊町への想いや今年のイベントについて伺いました。
小林: 東北出身の私にとって、震災時に起きた福島第一原発の事故は非常に衝撃的であり、自然と人間がどのように共存していくべきかを深く考えるきっかけにもなりました。ap bankとしては、2011年の震災直後から、福島で何ができるか模索し「Meets福しま」などのイベントを開催してきましたが、支援の難しさは感じていました。
そのような状況の中、昨年の大熊町で開催されたイベントに参加する機会をいただきました。実際にこの地を訪れると、震災の困難を乗り越え、新たなエネルギーを生み出している姿が強く印象に残りました。日本全体が地域衰退という深刻な課題を抱える中、大熊町では確かに希望に満ちた前向きなエネルギーが生まれています。この力強いエネルギーをさらに広げていきたいという思いはあります。
今年の「おおくま学園祭2025」に引き続き携われることを大変嬉しく思っています。昨年の経験を踏まえつつ、今年は新たな企画や取り組みを通じて、さらに多くの人々にこのイベントの魅力を届けられることを楽しみにしています。
保良: 私が大熊町を訪れるようになったのは3年前、Reborn-Art Festival に参加したことがきっかけです。初めて足を踏み入れたとき、荒れた道が広がり、Googleマップすら機能しない場所もありました。そんな光景を目の当たりにし、「ここを美しい場所にしたい」という思いから、まずは封鎖された道付近に種を撒くことから活動を始めました。
私は、大熊町が多くの人にとって「住みたい」と思える場所になることが重要だと考えます。そのためには開発や整備も必要ですが、都市の便利さを追求するだけでなく、自然や余白を活かした新しい創造を目指すことが大切であると感じます。大熊町の持つ多くの魅力を生かしながら、新たな創造の場として発展していくことが、未来へとつながるはずです。
佐藤: 14年が経ち、現在の大熊町は震災前とは大きく姿を変えました。震災前には1万人を超えていた町内居住人口は現在1,400人ほどですが、その中でも未来に向けた新しい芽が育ち始めています。かつて商店街があった場所には、新しい施設が建設され、復興の拠点として生まれ変わっています。教育分野やテクノロジーの分野での挑戦も進んでおり、特に、町内の子どもの数が増えていることは、大きな希望です。移住者の受け入れや、OICをはじめとする学びの場の整備、大規模なイベントの開催などは、次世代に向けた大熊町の新しい形を示しています。
小林: 「『オデッセイ』には、新しい未来に向かって航海するという希望が込められています。昨年のテーマ『通底』は、人や価値のつながりを描くものでしたが、今年はそのつながりを出発点に、未来への新たなステップを提案したいと考えています。テクノロジーの進化を進めつつ、見過ごされがちな価値や隠れた可能性、人間らしさを掘り起こす。「進化」にしっかりとむき合う機会にしたいという想いを込めています。
佐藤: 今回のイベント会場となるOICの校舎では、第3セクター「るるるん電力」から供給される再生可能エネルギーを活用し、さらにステージの電力も未来型バッテリーと校舎の電力供給を組み合わせて運用する予定です。これにより、イベント全体を通じてカーボンニュートラルを目指す仕組みを実現しています。また、参加者の交通アクセスについてもカーボンオフセットを実施し、イベントのカーボンフットプリントを最小限に抑える取り組みを進めています。
大熊町は、2020年2月に「2050ゼロカーボン宣言」を行い、2050年までに二酸化炭素(CO₂)排出量を実質ゼロにすることを目標に掲げています。今回のイベントは、ゼロカーボンの実現に向けた課題に具体的に取り組むとともに、大熊町の未来志向の姿勢を広く発信する貴重な機会となることを目指しています。
小林: ゼロカーボンへの取り組みは、社会と経済の関係性から非常に複雑な課題が絡み合っており、単一の答えに収まるものではないと考えています。それでも、この複雑さに向き合いながら、未来に残すべきもののために一歩ずつ行動を起こしていくことが重要です。
ap bankとしても、大熊町のように挑戦を続ける人々の想いを伝え、こうしたメッセージを広めていくことを大切にしていきたいです。
保良: 現在、「根の家」というテーマで作品を制作しております。この作品では、震災の影響を受けた土地に再び根を張り、アートを通じて地域の再生を象徴的に表現することを目指しています。
『ハマコネ』でのプロジェクトを開始した当初は、シェアファームの構築を計画しておりましたが、「土」や「種」を扱う中で、さらにそれらの成長に不可欠となる「根」に着目するようになり「もう一度根を張り直す」というコンセプトが生まれました。「根の家」では、根を育む命の源である、水をテーマにした作品構想を描いています。
今回の「おおくま学園祭」では、土壁のワークショップの開催を予定しております。このワークショップでは、大熊町の土地の素材を活用しながら、未来の町を作るという思いを体験していただくことで、古き良きものを大切に残しつつ、次世代に向けた新たな価値 をこの大熊町から広げていくきっかけを作りたいと思います。
イベント名:「OKUMA ODYSSEY - おおくま学園祭2025」
開催日:2025年3月15日
会場:福島県大熊町
公式サイト:https://okuma-fes.jp/